ノアの箱舟

極悪時代

1 地球上で人類が繁殖し、世界各地に移り住み始めた時代のことである――

2 「ウフフフ・・・♥」

「アハハハ・・・♥」

(う、美しい・・・・・・)

当時、人々の中には、神の子と呼ばれた天使たちがいた。彼らは、地上に住む女の容姿に魅入られ、それぞれが気に入った女を妻にし始めたのだった。 そう、神などお構いなしにやりたいほうだいし始めたのは、紛れもなく悪魔になり下がった堕天使たちだ。

3 そのありさまを見た神は言った。 

「——わたしが人間に吹き込んだ魂が、永久に生きることはない。彼らはしょせん人間だ————120年の寿命を設けよう——」

4  堕天使は、欲しいままに人間の女との間に子をつくった。いにしえから最強の戦闘民族とうたわれてきたその子たちは、後にも今にも地球に住む巨人や特別な力を持つ種族となった。

5 神は、地球上の人間が目も当てられないほど悪に染まっているのを見た。彼らの眼中にあるのは、悪のみ。

6 神は人間を創ったことを非常に残念に思った。それはまるで心がかきむしられるような辛さだった。

7 「——わたしが創った人間を地球から1人残らず排除しよう——動物もだ。大きな動物から小さな動物、地をはうものから、空を飛ぶものまで——」

神は、残念で仕方がなかった。

8  しかし、1人を残して・・・・・・

その名もノア。

ノアは、唯一神の心にかなう男だったのだ。

唯一の聖人と箱舟

9 これは、ノアとその家族の話である。その時代、唯一正しく生きた男ノアは、間違いを指摘されたことがなく、神を生涯の友として生きた。 10 また、ノアには3人の息子がいた。セム、ハム、ヤペテがそうだ。

11 一方、地球をのぞいた神は、人間たちが年中無休どこででも罪を犯し、互いを傷つけ合っている様子を眺めた。 12 そして、こう思った。地球上は悪に染まり、人類は完全に行きづまったと。

13 手のつけられない状態になった世の中を見て、神はノアについに伝えた。 

「――地球中の人間が互いに過ちを犯している。そのため、わたしは地球上のあらゆる存在を1人残らず滅ぼすことにした―― 

14 いいか、樹脂じゅしの多い木で舟を造り、タールで防水をほどこすのだ――舟には甲板こうはんを張り、仕切りをつけよ――  15 全体の大きさは、長さ150メートル、幅25メートル、高さ15メートルにする――  16 周囲には、屋根から50センチ下がった所に天窓をつけるのだ――中の甲板は上中下と三層にし、船腹ふなばらにはひとつだけ扉をつけよ――」

このとおりに舟を造ると長方形の箱形になる。神は続けた――

17  「――よく聞け、わたしは世界に最大の洪水を起こし、息あるものを絶つ・・・!!! ――地にあるものは、みな死に絶える――  18 だが約束しよう! 妻や息子夫婦を含め、舟に乗りさえすれば、おまえたちの安全は保証する!! 

19 ――すべての生き物のオス・メスを舟に乗せ、洪水から守るのだ! 20 ――あらゆる種類の鳥も動物も、大きいものから小さいものまでがノアの元に自らの足でやって来る! 21 ――それからおまえたちの食事と、動物のエサのためにあらゆる食糧を蓄えて、十分食べられるようにするのだ・・・!!!――」

22 それからノアは、神から命じられたことをすべてを守るよう、細心の注意をはらって生きたのであった。

極大洪水

1 その時は、刻一刻こくいっこくと近づいた――  

「――時は満ちた!この地上で正しい人間と言えるのは、残念ながらノア、おまえだけだ・・・!!!――今日がその時だ――今こそ、家族全員を連れて舟に入るのだ!!

2 ――また、全種類の動物もオスとメス1組ずつ連れて入りなさい――ただし、食用と生けにえ用に、聖別した動物は、それぞれオスとメス7組ずつだ 

3 ――鳥を全種類、オスとメス7組ずつ連れて行くのだ。こうすれば、洪水の後、生き物は世界へと羽ばたき、繁殖する!

4 ――今から7日後・・・わたしは地球を雨で覆う・・・!!!――40日の間、昼夜ちゅうや問わず降り続ける雨だ!こうしてわたしが創ったあらゆる地上の生物は、ノアたちを残し、全滅する・・・!!!――」

5 何もかも命じられたとおりにしたノアは、 6 この時、600歳であった――

7 「い、急げッ! 時間がない! 死にたくなければ、荷物をまとめて箱舟へ入るんだッ!!!」

 水から逃れるため、ノアは妻と息子と嫁たちを連れ、急いで舟に乗り込んだ。 

8-9 ガサガサ・・・・・・グルル・・・ウキーッキー・・・パオ——ンッ・・・

「!」

動物の鳴き声が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間、ノアはなんとも不思議な光景を目の当たりにした! 

「ど、動物たちだッ!ははッ!!神がおっしゃったとおり動物たちが来たぞー!!!」

 あらゆる動物たちがノアの造った箱舟へ向かってくるではないか! なんという光景だ・・・野獣たちを含め、すべての動物がオスとメスのペアになっておとなしく箱舟に入って行くのだ。 食用と生けにえ用の動物、鳥から地をはうものを含めたすべての動物がである! ノアは、神に言われたとおり、動物たちを迎え入れた。

10 7日後——

その時はやってきた・・・。

神の預言どおり水が地上を覆い始める。

11-12 ノア誕生より600年と2ヵ月17日——

ザ、ザザザザ————————!!!

天の窓がかっぴらいたかのように、雨が勢いよく落ちた! 見たことないほどのどしゃぶり・・・

「な、なんだこれは・・・!!!」

「んなの見たことがねぇ・・・!!!」

何がどうなっているか分からない地球人は、慌てふためいた。

ドカーン!ボカーン!ド、ド、ド、ドドド、ドーンッ!!!

地面からも、水が次々と勢いよく吹き出す!

「う、うわぁ〰〰〰〰!!!」

「ギィヤァ————!!!」

「ヒィ——、助けてくれぇ———!!!」

どこもかしこも水であふれてしまった。昼も夜も雨は降り続け、その勢いは40日の間止まることはなかった・・・・・・。 

13 だがまさに洪水が始まったその日にノアは妻と息子セム、ハム、ヤペテとその嫁たちを連れて、舟に乗り込んでいた。  14 もちろん、家畜かちく、野生を問わず、あらゆる種類の動物、爬虫類はちゅうるい、鳥も一緒。

15 つまり、息あるすべての種の生物がノアとともに箱舟に乗り込んだわけだ。 16 神の命令どおり、オスとメスのペアで乗り込んだ。すると!

ギィ・・・ガタ———ンッ!!!

神、自らが箱舟の扉を閉じた。

17 それから40日の間、すさまじい勢いで水が地球を制圧した。

ザッバ——ン!

 ついに巨大な船体は、水に浮かんだ。 18 水かさがみるみる増し、水面は荒れる一方だが、巨大な船体は沈没することはなかった。  19 まだまだ水かさは上がる。 な、なんと、世界中の高い山という山が、すべて水をかぶってしまったではないか!  20 いちばん高いところでさえ、水面から7メートルも下に沈んだほどだ・・・!

21 地上の生き物は、みな死に絶えた。鳥、家畜かちく、野生の動物、爬虫類はちゅうるい、そして全人類が・・・・・・。  22 かつて、乾いた地の上で生き、呼吸していたものは、絶滅してしまった。 

23 こうして、人間、巨大な動物、地をはう生き物、鳥といった地上の全生物が姿を消した。 ノアと舟に乗るもの以外きれいさっぱり・・・・・・。

当たりを見渡すと、一面水、水、水!地球の面影おもかげはすっかりなくなり、水だけの星となった。

24 それから150日もの間、水面に地が顔を出すことはなかったのである。

過ぎ去りし嵐

1  神は、箱舟の中にいるノアたちや動物のことを決して忘れはしなかった。 

ビュ———————— ・・・

水を引かせようと風を吹きつける。 

2 地面から吹き出していた泉は止まり、滝のように降っていた雨は、ぴたっとおさまった。 まるで、天窓が閉じたかのように。

3 そして水は引き始めた。そして、150日後・・・

4 ドゥン・・・

「!」

「船底に何か触れたぞ?」

「ま、まさか・・・?」

「ゔおぉ————!!!」

・・・ふぅ~・・・ 「地に足をつけるまで、もう少しの辛抱だ・・・」

7月17日——

箱舟はアララテ山のてっぺんで止まり、休息の時となった。 

5 くる日もくる日も水位は下がり続けた。それからおよそ3ヵ月後。

10月1日——

「お、おいッ! みんな、こっちに来いッ!!」

「なんだなんだ!」

「親父、なんか見えたのか?」

「あそこだ! 見えるか?」

「ああ、ほんとだ! だがなんだありゃ?」

「山のてっぺんが顔を出したんだッ!!」

「おー!!!」

ようやく、遠方にほかの山々が見え、みんなして喜んだ。

6  水が引き始めてから40日目——

ギィィィガタンッ

ノアは舟の天窓を開けた。

すると、気持ちのいい空気がすーっと入ってきた。

7 「よーし、よし。乾いた地を見つけてきてくれよー。 そらッ!」

バサッバサッ・・・かぁ〰かぁ〰かぁ〰・・・

ノアはカラスを空へ放した。カラスは、地面が乾くまであちこち飛び回った。 

8 「よーし、よし。次はお前の出番だぞぃ!行ってこーいッ!」

パサパサパサッ・・・・・・

しばらくすると、ノアはハトも放した。乾いた地が顔出すほど水が引いたかどうかを知るためだった。

9 !・・・

「お、ポッポー!帰って来たか!」

ハトは、下り立つ地を見つけることができず、帰って来た。

「ほらポッポ!わしの元へおいで!

・・・・・・はぁ、収穫なしか」

ノアは腕を伸ばし、ハトを舟の中に引き入れた。

10 7日後——

「そーら、今度こそッ!」

ノアはまたハトを飛ばした。 

11 その夕方ごろにハトは戻ってきた。

「お!帰ってきたか!・・・ん?これはなんじゃポッポ・・・こ、これは!」

ハトが口にくわえているものを手にとって見てみると、オリーブの葉ではないか!

「みんなー!ポッポがオリーブの葉をくわえて帰って来たぞ!!」

「はははっ!もうすぐだ!!」

 これでそうとう水が引いたと分かった。 

12 1週間後——

もう一度ハトを放ってみたが、それっきり戻ってはこなかった。

(ポッポが帰って来ない・・・。そうか・・・)

ノアは笑みを浮かべた。

13 大洪水に終止符が打たれたと確信したのだ。 そしてこの時、ノアは新たな年を迎えた。そう、今日が彼の601歳の誕生日。

天井の覆いをとり、辺りを見渡すと、そこにあるのは浮き彫りになった地が乾き始めている光景だった!うる目になったノアの目は、キラキラ輝く。

(やっとだ・・・やっと、また昔のように・・・)

14 それから8週間が経った。

2月27日——

「つ、ついに・・・地が乾ききったど〰〰〰〰!!!」

「うぉ〰〰〰〰〰〰〰〰!!!」

地面は完全に乾ききった。ノアや動物たちは、もう大喜び!

15 そしてついに神からもお許しがでた・・・。

16 「さあ、ノア!そろそろみんなを連れて外に出る時だ! 17 動物も鳥も地をはうものもすべて出してやりなさい。さすれば生き物は、世界に繁殖する!!」 

18 待ってましたと言わんばかりの勢いでノア夫婦と息子夫婦たちは出て行った。

「イ—ヤッホ——!!」

「 陸だ———!!!」

「うわっははは——!!」

「おまえたちも出てこいッ!陸だぞ陸!恋しかったろ!!!」

19 「ウキィーキィー! パオーン!!アウ———!!!」

世界中にいたすべての動物たちも種ごとになって、1組ずつ順にノアの後に続いた。

ノアの生けにえ

20  ノアは最初に足をついたこの地に祭壇さいだんきずき、神から特別に指定された動物や鳥を、生けにえとして焼いてささげた。 

21 神はそのささげ物のにおいを嗅いで喜んだ。そしてこう心に誓ったのだった。 

「——人間が犯した間違いによって地を滅ぼすことはもうよそう——人間にどうにかできるものではない——生まれた時から自分勝手なのだから——今回のように地球上の生き物を駆逐するのは、これで最後とする 22 ——わたしが愛する人間のため、大地がある限り、種まきと収穫の周期は止まることはない——暑さと寒さ、冬と夏、昼と夜は繰り返される——」

虹の約束

1 神は、ノアと息子たちの繁栄を約束した。

「――埋め尽くせ!――世界を人で満たせ!! 2 ――おまえたちに動物を治める権威を与えよう!――地球上の野獣と鳥と魚と地をはうすべての生き物はみな、おまえたち人間を恐れる!!

3 ――穀物こくもつと野菜のほかに、地球上に動くすべての物を食すことをこのわたしが許す! 

4 ――だが、血が入ったままで食べてはいけない。血はいのちのみなもとだからだ  5 ――おまえたちの血にも、わたしの息がかかっている――だから、もし動物だろうと人間だろうとおまえたちを殺すものがいれば、わたしが死をもってして裁く――

人を殺した動物は殺せ――人の場合もそうだ――殺人者を生かしておくな 6 ――神に似せて創られた者を殺す罪は深いのだ・・・! 

7 ――さあ、子をたくさん生み、この地球を埋め尽くせ・・・!!!――」

8  それから、ノアと息子たちに約束した。 

9 「――わたしは、今日、おまえたちとその子孫との約束を結ぶ―― 10 そればかりか生き残った鳥、家畜かちく、野生の動物からすべての生き物に誓おう――

11 もう二度と洪水で世界を滅ぼしは・・・!!!  12 ――そのしるしに、 13 雲に虹をかけよう!――これは、おまえたちと全生物の間にわたしが結んだ約束のしるしとなる!!――人間が地にいる限り、約束は守られる!――

14 ――わたしが雲を送り、大地を覆う時、この虹は姿を現す

15 ――そして、わたしは、命あるものを二度と洪水で滅ぼさないと、堅く約束したことを思い起こす 

16 ――雲に虹がかかった時、わたしと生き物の間にしたこの約束が、永遠に続くことを思い出す

17 ――この虹は、生き物との間にした約束を保証する・・・!!!――」

舞い戻る過ち

18  ノアとともに船を降りた3人の息子。それは、

――セム

――ハム

――ヤペテ

このうち、ハムがカナン人の先祖にあたる。  19 この3人から世界のあらゆる国民が生まれたのである。

20 ノアは農夫となり、最初のぶどうを栽培さいばいした。 21 それは、ワインを造るためだった。そんなある日のこと・・・

「ゴクゴクゴクッ、ぷは~。ヒック、へへへ・・・今夜は飲むぞぉ・・・」

生まれ育った故郷こきょうと知人たちを失ったせいか、ノアはぐでんぐでんに酔っ払うまで飲み続けた。

「お~ぃ、女房にょうぼうやーい! ヒック、入るぞぉ・・・」

ノアは、酔っぱらった勢いでテントの中にいる妻のもとへ向かった。中へ入ると服を脱いですっ裸になって寝そべった・・・・・・。

22 すると、ハムが何やらこそこそ父であるノアと母が裸で寝ているテントに入っていくではないか!なんと、息子のハムは、父が爆睡しているところを見計らって、両親に対し、非道な過ちを犯してしまったのだ・・・・・・!!!

ハムは、テントを出ると兄弟たちのところへ行った。

「へっへー!聞いて驚くなよ!俺は、してやったんだッ!親父がべろんべろんに酔っぱらってたから、爆睡しているに違いないとふんで、親父と母さんの寝床に入ったんだ!

するとどうだ!俺の読みどおり、親父は、真っ裸で大きないびきをかいてたよ!ははっ!すんげーだろ!!」

恥知らずの大バカ者ハムは、胸をはって兄弟に自慢した。

23 「な、おめぇは、なんてことをしちまったんだッ!!!」

「ヤペテ、行くぞ!」

セムとヤペテは、青ざめた表情ですぐさま父の寝巻きを取りにかけ足で行った。その寝巻きを自分たちの肩にかけ、2人並んでうしろ向きのまま、恐る恐るテントに入った。 

(そぉっとだぞ・・・)

(ゴクッ・・・ああ)

両親の裸を見ないようによく注意しながら、寝巻きをずり落とし、ノアの体にかけた。

(よし、出るぞヤペテ・・・!)

(ああ・・・!)

24 ワインを飲み過ぎたため、未だにぐっすり寝ているノア。

(イ゙、イテテテ・・・飲み過ぎちまったなぁ・・・・・・ん?)

ノアは酔いがさめて起き上がると、異変に気づいた。そこで思うところをたどっていくと――

「お゙、おのれハムゥゥゥ〰〰〰〰〰〰〰〰!!!」

ノアは、寝ている間に何があったのかを悟ったのだ。

25 「ハムの息子カナンから出た民族、カナン人よ・・・呪われよ。セムとヤペテの奴隷になり下がれ・・・!!!

26 そして、神様がセムを祝福し、カナン人は彼の奴隷となるように。

27 また、神様がヤペテに土地と子孫を豊かに与えるように。ヤペテとセムの間には平和があるように。だが、カナン人はいつまでも彼らの奴隷となれ・・・」

28 極大洪水ののち、ノアは350年生きた。 29 そして、950年の天寿てんじゅを全うした。